4. 裁決−2007年1月26日への荒井容子によるコメント全文


※この裁決への請求人側の反論は、裁判資料の原告訴状に丁寧に記されていますので、正確にはそちらをご覧ください。  以下は私自身によるコメントです。資料をご覧になるときに参考にしていただければ幸いです。

 〔「不適格」の基準をきちんと示さないままの裁決〕

  請求人側はこの人事委員会で、「教師」として「不適格」かどうかを判断する正確な基準の提示した上で裁決を行うことを求めましたが、 この裁決はそれには全く答えていません。
 この判決は「小括」(p.27)で、「請求人の教育公務員としての適格性についてみると、私物撤去や自動車通勤の関して校長から繰り返し行われた 指導や職務命令を無視する行為、その際の校長及び教頭に対する暴言や逃げ回る等の行為、体罰を容認するような言動、体罰を隠蔽するための行為、 繰り返された虚偽発言等の一連の行為を相互に有機的に関連付けて評価すれば、決して一過性のものではなく、簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、 生活等に起因して職務の円滑な遂行に支障があるものと認められる」と記述されています。

 〔「事実誤認」と指摘している事柄について、その真偽を確認せぬままの裁決〕

  しかし、第一に、ここで挙げられている論拠の多くが、請求人側が事実誤認として、証拠をもって否定していることです。
  たとえば、「暴言」ということで本文内部で示されていることは、疋田教諭が否定しているにも関らず、人事委員会では、 その真偽を丁寧に検証することもなく、そのまま都側の主張を裁決理由の根拠として記述しています。
  「体罰」行為についても一部、処分理由で虚偽が記述されていることを、請求人は主張してきまた。それなのにその部分についても、 人事委員会の審理の中でその真偽を丁寧に検証せず、そのまま、都側の主張を記述しています。

 〔認識の未熟さによる行為を「虚偽」「隠蔽」と誤認し、人格の「特性」としてしまう強引さ〕

  第2に、「虚偽発言」とされていることは、すべて「体罰」認識の誤りと、管理職による「パワ−・ハラスメント」状況の中で生じた発言や行為であった ことを丁寧に説明したにも関らず、この裁決では相変わらず、都側の主張のままに、「虚偽」「隠蔽」という判断をそのまま用い、 「簡単に矯正することのできない特性」などと表現しています。事実誤認や状況説明をしているのに、それでもなお「特性」などというのであれば、 その根拠を示す必要があると思います。

 〔教材を「私物」と見なし、かつ教育活動に関係がないと、教育活動理解に誠実に取組まないままでの裁決〕

  第3に、処分理由に挙げられていた大量の「私物」とされているものについては、請求人は、それらがみな、教育活動のための教材であったことを 人事委員会の場で丁寧に説明してきました。それにも関らずこの「裁決」では、「ギタ−等の大量の学期、おもちゃ、ぬいぐるみ、雑誌など、 その他大半の私物は、授業や部活動のための物品とは到底認められず、また大量の成人雑誌が性教育教材であるとする 請求人の主張もにわかには信じがたい」(p.24)と記述しています。
請求人はこの「物品」が教育活動のための教材であることを、人事委員会で丁寧に説明してきたのですから、 「にわかには信じがたい」などという無責任な論述はすべきではありません。丁寧に検討して、それでもなお「信じがたい」なら、 なぜそうなのか、説明すべきです。
  人事委員会での請求人側の主張、請求人側の準備書面、請求人陳述書をもし読んでいなければ、学校教育に詳しくない人には「にわかに」は 「信じがたい」かもしれませんが、もしこれらを読めば、請求人がこれらの「物品」を使って、いかに教育活動を豊かに展開してきたか、 「にわかに」、すぐに、「信じる」ことができるはずです。
  一体この裁決をした人事委員会の委員及び委員長は、人事委員会の審理において、 何を聞き、何を見てきたのかと、その役職に対する無責任さ、不誠実さに驚いてしまいます。

 〔教育活動を行う教師への「命令」としても、また一般市民への「命令」としても理不尽な「職務命令」の、 その理不尽さを問わないままに、ただ「職務命令」に従わないから「不適格」とする短絡的判断〕

  また以上のことから分かるように、「私物撤去」という職務命令自体が豊かな教育活動を妨げる命令であることが分かるはずです。
  「自動車通勤」についても、疋田教諭は学校の敷地外で駐車場を借りて通っていたのであり、それは小平5中の地域的配置、 また疋田教諭の家庭環境からみて、疋田教諭が学校で十分に教育活動を行うための、努力の成果だったのです。それを、毎回申請を出し続けているにもかかわらず、それを「許可」せず、 登校を妨害する行為までするなど、これはまさに教育活動の妨害する不当な「職務命令」であったといえます。
  請求人は、「私物撤去」「自動車通勤」について出されたという「職務命令」のもつこのような不確かさ、矛盾した内容、そして不当性についても 人事委員会で指摘していました。それにも関らず、この裁決はそのことに触れないまま、裁決を行っています。
  つまり、この裁決をそのまま受け入れると、教育公務員は、管理職がたとえ世間一般の常識からみてありえないような理不尽な 職務命令を出した場合でも、また教員の教育活動を妨害するような「職務命令」を出した場合でも、教員は、それに従わなければ教育公務員として 「不適格」とされるということになってしまいます。

 〔真偽が争点となっている資料を、その真偽を確認せぬままに裁決の理由にあげる無責任さ〕

  なお、この裁決は本文中の「理由」の章で、その記述内容がまさに「誹謗中傷」となっており、作成過程も不透明な、 PTA役員代表による「要望書」の記述内容や(p.21)、2003年9月3日の「新聞報道」(p.20)まで、裁決の理由に挙げています。 もしこれらのようなことを裁決の「理由」にあげるのではあれば、まず第1に、「要望書」についてはその真偽を確認してからにすべきです。 ところがこの裁決ではそのような真偽確認をしないまま、この「要望書」を「理由」に挙げています。
  またここに挙げられている「新聞報道」については、その内容自体に虚偽や誇張した表現があり、 さらにそこでは主として「都教委」の判断が紹介されています。従って、これらの内容をもつ記事をそのまま裁決の「理由」に挙げることは不当であると思います。











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更新2007/10/20