国 家 論

 
ネーション(nation)と区別された意味での国家(state)についての文献を紹介します。ここで「国家」とは、ある特定の領土を統治する権力機構のことを意味しています。文化や歴史的記憶を共有する人々が構成する共同体であるネーションとは区別されます。


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国家を分析するための理論が「国家論(theories of the state)」になるわけですが、何を国家論と呼ぶかは研究者によって様々です。19世紀末以来の欧米の社会科学の歴史のなかで、「国家」を扱った議論は少なくありませんが、まずそれを整理するところから始めましょう。「国家」という言葉を使用しているかどうかは別にして、近代国家を対象とした理論的アプローチとして、代表的なものを以下の4つにまとめておきましょう。

@ マルクス主義的階級論
A 自由民主主義的多元主義論
B エリート主義理論
C 制度主義理論

@は言うまでもなく、マルクス、エンゲルス以来の国家論であり、基本的に国家を階級関係、特に支配者階級の利害との結びつきで考える理論です。Aは戦後アメリカ政治学で発展したものですが(その源流は戦前にも遡ることができますが)、国家を社会の諸集団の利害表出の場と捉える理論です(ただし、このアプローチは「国家」という言葉を通常使用していません)。Bは国家の活動を、国家の指導的位置にいるエリート層(官僚や政治家)の意思決定や利害関心によって説明するものです。そしてCは国家統治に関わる様々な制度の集合として国家を捉え、その独自な能力や作用について問う理論です。

この四つの理論のうち、ここではCの制度主義的アプローチを基軸にしながら国家論を紹介していきます。(マルクス主義的国家論は最後に集めてあります。)

制度主義国家理論の出発点を、マックス・ヴェーバーに置きます。ヴェーバーは決してまとまった国家論を生み出したわけではありません。しかし彼の国家論は、国家を他の社会集団と区別された、独自の性能をもった制度として明確化しています。その要点は2つあります。一つは、「正当な暴力行使」を独占しているということ。国家が法を強制的に執行できるのはそのことを前提にしているからです。もう一つは、国家を支配する人間とも、支配される人間とも区別された、非人格的な制度として描いているからです。彼の官僚制論は、そのことを明らかにしています。

制度主義的な国家論は、1970年代に入ってアメリカの歴史社会学者たちによって刷新され、歴史的なデータを用いた社会学的な国家論として展開されるようになりました。(政治学にも大きな影響を与えています。)チャールズ・ティリーの存在は、そのなかでもとりわけ重要なものです。ティリー以後の国家論を、ここでの「国家論文献リスト」では中心的に紹介しています。

なお、ティリーに始まる歴史社会学的な国家論とならんで、若干遅れて政治学でも、「合理的個人」に基礎を置いた国家論が展開されました。ダクラス・ノース(ノーベル経済学賞を受賞した経済史学者)やマーガレット・レヴィらの国家論です。この流れの国家論は、まだそれほど勉強しているわけではないので、紹介はごく代表的なものだけに限られています。

また、国家の思想や概念の歴史についての研究もありますが、このサイトの文献リスト(下にリンクがあります)には載せていません。名著として名高いものとしてフリードリッヒ・マイネッケ『近代国家における国家理性の理念』(原著1924年、邦訳は菊盛英夫・生松敬三訳、みすず書房)があります。この本は必読です。

より最近の国家の概念史研究としてはクエンティン・スキナー『近代政治思想の基礎――ルネッサンス、宗教改革の時代』(門間都喜郎訳、春風社、2009年)がある。大変にしっかりとした研究だが、国家の概念史としてはやや物足りない、隔靴掻痒の感がなくはない。歴史の流れが細切れに思えるところがあるからである。



≪参考文献≫

Theda Skocpol, "Bringing the State Back In: Strategie of Analysis in Current Research", in Peter Evans et al. (eds.), Bringing the State Back In (Cambridge University Press, 1985), pp. 3-37.

Michael Mann, The Sources of Social Power, volume III: The Rise of Classes and Nation-States, 1760-1914 (Cambridge University Press, 1993), Chapter 3 ("A Theory of the Modern State"), pp. 44-91.

Edwin Amenta, "State-Centered and Political Institutional Theory: Retrospect and Prospect", in The Handbook of Political Sociology: States, Civil Societies, and Globalization (Cambridge University Press, 2005), pp.96-114.

Thomas Ertman, "State Formation and State Building in Europe" in ibidem pp. 367-382.

Margaret Levi, "The State of the Study of the State" in Ian Katznelson and Helen V. Milner (eds.), Political Science: The State of teh Discipline (W.W.Norton & Company, 2002), pp.33-55


佐藤成基『国家の社会学』(青弓社、2014年)[国家について社会学的な概説を試みたものです]⇒購入できます




※社会科学における国家概念に関する自省的考察として60年代、70年代に書かれた次の二つの論文は今でも参考になる。

J.P.Nettle, "The State as a Conceptual Variable", World Politics, 20 (1968). pp.559-597.

Philip Abrams, "Notes on the Difficulty of Studying the State, Journal of Historical Sociology, Vol.1, No.1. (1988), pp.58-89.[もとは1977年に学会で報告されたペーパーだった。]
 




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